Home / ファンタジー / 転生したら王族だった / 16話 口元についたお菓子と、フィーの顔に触れるレイニー

Share

16話 口元についたお菓子と、フィーの顔に触れるレイニー

Author: みみっく
last update Huling Na-update: 2025-11-01 06:00:55

♢護衛との攻防

「あ、あのさ、ここ王族専用の魔法の練習場なんだよ。メイドさんは良いとして、護衛兵は兵士でしょ? 入っちゃダメだと思うんだけど?」

 レイニーは、護衛たちに聞こえるように、少し大きめの声でそう言った。護衛を連れずに入ることを、彼らが許すはずがない。これで諦めてくれないかな、という淡い期待を込めて。

 フィーはレイニーの言葉に納得したように頷いた。

「そうですね、他国の王族専用施設ですものね。あなた達、出ていきなさい。ここには護衛は必要ありませんわ」

 フィーの意外なまでの素直な受け入れに、レイニーは拍子抜けした。だが、護衛兵がその指示を受け入れるわけがないのは分かりきっていた。何かあれば、責任は護衛兵にのしかかる。

「……その指示には従えません!護衛なしは認められません。護衛が出来る施設にしていただくか……別の部屋で練習が終わるのをお待ち下さい」

 やはり、そうなったか。護衛兵は毅然とした態度でフィーの言葉を拒絶した。

 フィーは、いつものムスッとした表情に戻っていたが、その眼差しには明らかな怒りが宿っていた。

「……あなた達、ここは友好国なのですわよ? 王族の練習施設で刺客でも入ってくるのかしら? それに友好国の王子様と自国のメイドがいるだけですわよ? 何が問題なのかしら……言ってみなさい」

 護衛兵を見ていると、彼らが可哀想に思えてきた。別に魔法の練習は、威力調整で抑える訓練だし、口実だから練習自体はしなくてもいいのだ。

♢書庫への移動とフィーの真意

「だったら……書庫に行こうか……護衛さんが困ってるし」

 レイニーがそう提案すると、護衛たちは安堵の表情を浮かべた。しかし、フィーの怒りはまだ収まらないようだった。

「あなたたちのせいで、レイ様の魔法の練習ができなくなったじゃないですか。ホッとして安心している場合ですか? 迷惑をおかけしたのですから謝罪をしなさい!」

 護衛たちを叱責しながらも、フィーの顔にも安堵の色が浮かんでいた。レイニーは首を傾げた。「これは……パフォーマンスなのか?」

 護衛たちが素直に謝罪をしてきたので、レイニーもそれを受け入れ、一同は書庫へと移動した。

 書庫に足を踏み入れると、フィーはそれまでの仏頂面が嘘のように、嬉しそうに一冊の本を手に取った。そして、何の躊躇いもなくレイニーの隣に座り、満面の笑みで矢継ぎ早に質問を投げかけてきた。

「レイくん、お好きな食べ物は?」「ルナちゃんと、仲がよろしいのですね……どの様な話題をお話されているのですか?」

 まるで別人のようなフィーの変貌ぶりに、レイニーは内心で戸惑った。これは、もしかしてフィーの両親の指示なのだろうか? 政略結婚にでも繋がるのか? しかし、視界の端でメイドと護衛たちが挙動不審にソワソワしているのが見えた。彼らも困惑している様子だ。という事は、両親の指示ではないのかもしれない。両親の指示ならば、メイドや護衛兵にも事前に伝えられているはずだし、二人きりになるように仕向けてくるだろう。それに、そのような策略を巡らすなら、対象はレイニーの兄たちであって、第三王子である自分ではないはずだ。

 まあ、ムスッとした表情が消えて、楽しく会話ができているのだから、これで良いかとレイニーは割り切った。素直になっているフィーを見るのは、嫌な気分ではなかった。

♢予期せぬスキンシップ

 書庫の奥にある談話室に入り、ソファに腰を下ろすと、すぐに紅茶と色とりどりのお菓子が用意された。

「フィーも、色々と詳しいんだね〜ビックリしたよ〜」

 王女としての教育を受けているだけあって、フィーは多岐にわたる知識を持っているようだった。

「常識程度ですが……」

 フィーが紅茶を一口飲み、顔を上げた瞬間、その口元に小さなお菓子が付いているのが見えた。普通ならメイドがすぐに拭いてくれるところだが、フィーはすでにメイドに「邪魔だから入り口で控えていなさい」と指示し、彼女たちは入り口で待機していた。

「あ、フィー動かないで〜。はい、付いてたお菓子が取れたよっ♪」

 レイニーは笑顔でそう言って、そっとフィーの口元に触れた。フィーは顔を赤くして俯き、「……ぅう。ありがとうございます……」と小さく呟いた。

「フィーの頬って柔らかくて気持ちいいね〜ぷにってしてるぅ♪」

 レイニーは、感動したようにフィーの頬を見つめながら言った。その感触に、思わず夢中になってしまいそうだった。

「……気持ちいいのですか? ほんとですか?」

 フィーは目を丸くし、自分の頬を両手でぷにぷにと触りながら、嬉しそうにレイニーを見つめた。

「わぁ……ずるーい、自分だけ」

 レイニーは頬を膨らませて、冗談めかして言った。まさか、それでフィーが動くとは思わなかった。

「さ、触ります……か?」

 フィーはそう言いながら、片方の頬をレイニーに近づけてきた。レイニーは驚いた。「え? 冗談なのに……。てっきり、『ずるいってなんですか。自分の頬ですし、異性の方に触らせるのは、はしたないですわ!』とか言ってくると思ったのに」

Patuloy na basahin ang aklat na ito nang libre
I-scan ang code upang i-download ang App

Pinakabagong kabanata

  • 転生したら王族だった   50話 エリゼの傷と、レイニーの怒りの覚醒

    「大人しく殺されなさい……」 ダイモンが冷たく囁くように言うと、エリゼが抵抗し動いたからか頬から血がにじみ出てきた。その赤い雫は、レイニーの視界を真っ赤に染めた。 エリゼを傷つけられたという、怒りの感情が溢れ出し、レイニーはエリゼに改めて完全遮断の結界を張った。この結界はこの世界と切り離されているので周りで何が起きようが影響を受けない。だが、何が起きているのか見えず、聞こえず、閉じ込められた感じになってしまう。空間の中に外の風景を投影してストレス軽減をしておいた。レイニーの心には、エリゼへの深い愛情と、ダイモンへの激しい怒りが渦巻いていた。 エリゼの傷は回復魔法が効かないと言っていたので、レイニーのスキルのイメージで治療した。回復ではなく、イメージで元の状態を復元した感じで、治すのとは違う。エリゼの頬の傷は、みるみるうちに消えていった。 さて、コイツをどうしよう……? 大切な仲間のエリゼを傷付けた大罪人を。背負われていたあーちゃんが、いつの間にか擬態を解き、ディアブロの姿で現れていた。その漆黒の翼は、闇の中で静かに広がる。「主よ……どうか怒りをお沈め下さい」 現れたディアブロが怯えた様子で跪いてきた。その声は、震え、レイニーの放つ怒りのオーラに怯えているようだ。「なんでさ? 仲間を傷付けられて許せるわけ無いでしょ。なに? 同族が殺されるのが嫌なわけ?」 レイニーは、ムスッとした表情をしてディアブロに言った。俺の仲間が傷つけられて許せっていうの? それで、自分の同族はゆるせって? あり得ないしっ。レイニーの言葉には、ディアブロへの不満と、エリゼへの強い庇護欲が込められている。「あんなヤツは、どうでもいいですが……。その力で攻撃は……マズイです。辺りが滅びます」 ん!? あ、同族をかばう気はないらしい。『あんなヤツ』とか言ってるし。ディアブロの言葉に、レイニーは少し驚いた。「ん? ディアブロには関係ないことじゃないの? 不死なんだろ?」「

  • 転生したら王族だった   49話 最悪な相手を怒らせた

    『気配を消すってことはさぁ、知能が高くて力もあるってことだよね? 普通の魔物じゃないってことかな……』『一応、気をつけてくださいね……でも、レイニー様なら大丈夫だと思いますけど!』 随分と、過剰評価をしてくれてるけど、俺はこの世界に来たばかりで……不安なんですけど。レイニーは、あーちゃんの言葉に内心でツッコミを入れた。♢悪魔子爵ダイモン 近辺の探索をすると、遺跡のような場所を発見した。そこには小さな祭壇があり、その祭壇には祀られているのか封印されているのかは不明な場所があったが、それが開けられていた。その光景は、レイニーの好奇心を刺激し、同時に不穏な予感ももたらした。 あぁ……ここで何かをしていたのか〜? うぅーん……気配の性質が魔物ではなく、遥かに知能が高い……。それに悪意を感じるという事はぁ〜……悪巧みをしてるってことかぁ〜。レイニーは、その場の状況を推測した。 気配を消してもバレバレなんだけどね、悪意に害意と殺意を感じるし。レイニーは、相手の意図を完全に読み取っていた。「あのさぁ〜ここで、なにをしてたのかな〜?」 レイニーは、殺意のある方へ声を掛けた。その声は、どこか挑発的だ。 祭壇の陰からディアブロとは違い、人型で角が生えていかにも悪魔という者が現れた。雰囲気とオーラの感じからしてディアブロの放つ悪魔のオーラをまとっていた。その姿は銀色の長髪が光を受けてキラキラと輝き、深紅の瞳が鋭い光を放つ。高級感あふれる黒と金の貴族衣装は、歩くたびに優雅に揺れ、豪華な装飾が一層彼の威厳を際立たせている。浅黒い肌には冷たい光が反射し、頭に生えた曲がった角が漆黒に光る。まさに高貴な悪魔の子爵といった風貌だ。その存在感は、見る者を圧倒する。 その悪魔が一瞬の沈黙を破り、低く冷ややかな声で話し始めた。「……全く、見て見ぬふりをしてその場を離れてくれればよかったのに&he

  • 転生したら王族だった   48話 人型魔物との戦闘と、エリゼの順応性

     気を良くして洞窟の奥に足を進めていくと、数匹のゴブリンに遭遇した。前方に現れると横穴からも現れて完全に囲まれた。まあ、知ってたけど……。レイニーは、ゴブリンの存在を事前に察知していた。 ゴブリンもこん棒を手に持ち、襲い掛かってくる。まるで軍に入りたての少年兵の様な大振りで、隙だらけで簡単に避けられるし、倒せる。レイニーは、初めての剣術を使いゴブリンの首を斬り落とした。その剣は、正確にゴブリンの急所を捉えた。 エリゼが実戦を見て、血や首を切り落としたところを見て引いてると思いきや……「うん。今度は、キレイな剣術だったよ♪ さすが、お父さんが認めるだけあるねっ」 エリゼは、ニコニコの笑顔で誉められた。人型の魔物でも抵抗がなさそうだね? 俺は少し抵抗があるんだけどなぁ……。レイニーは、エリゼの順応性に驚きつつ、自身の内心の葛藤を感じていた。♢地下湖と古びた扉 さらに洞窟の奥に進むと、小さな地下湖が現れた。その水面は薄い霧がかかっており、松明の光が反射して幻想的な光景を作り出している。幻想的で不気味にも感じる光景で、息を呑む雰囲気だった。その美しさと不穏さが混在する空気は、レイニーの心を掴んだ。「わぁ……キレイだけど……不気味だね」 エリゼも同じ事を感じていたみたい。その声には、驚きと、わずかな恐れが混じっている。「うん。幻想的でキレイだけど、魔物が現れそうな感じがするね〜」 レイニーは、警戒しながら呟いた。 湖のほとりを見渡すと、冒険者たちが置き去りにした古びた装備や道具が見え、ここが多くの者にとっての休息の場でもあったことがうかがえるし、ここで襲われたとも考えられる。休憩をしているところを襲われ、荷物や装備品をそのままに逃げたのかもね……。その光景は、過去の出来事をレイニーに想像させた。「冒険者の装備品が、不気味に見えるね〜。周りに魔物の気配は無いけど、気を付けないとね」 レイニー

  • 転生したら王族だった   47話 「すごいけど、剣術じゃない」セリオス譲りのダメ出し

     その岩の割れ方は、まるで誰かが強大な力で割ったようだった。こんなパワーを持つ人間を見たことも聞いたこともない。もし、そんな人間がいたら軍が見逃さずにスカウトしているだろうし。それか、冒険者の中にいるのかもしれない。レイニーは、その圧倒的な力に想像を巡らせた。「ここから入れそうだよ?」 エリゼがニコッと言ってきた。さすが、冒険者志望だね。しかも責任回避をして俺に行かせようとしているしぃー。俺なら何でも許されると思っているのか? 今のところは許されているけどさ〜♪ レイニーは、エリゼの行動に、面白さと、わずかな呆れを感じた。 まあ、こんな面白そうな所を見つけたら、誘われなくても行くでしょ。「一緒に行く?」 レイニーは、エリゼならついてくると分かってて笑顔で聞いた。「……うぅ……こんな所で、わたしを一人にするの?」 エリゼがレイニーの服をそっと掴み、不安そうに見つめてきた。その瞳には、心細さが滲んでいる。「エリゼなら大丈夫じゃない?」 レイニーは、エリゼの反応が可愛くて……ついついイジワルなことを言ってしまう。「いやぁ。大丈夫じゃなーい。一緒に行くぅー!」 可愛い頬を膨らませたエリゼが言ってきた。「だよねぇ〜」「うん♪」 二人で顔を見合わせて頷き、ニコッと笑った。このパーティでは、エリゼが止める役だったが、俺と一緒にいることで影響を受けてしまっていて、今では止める人がいないので危ないかもしれないな。レイニーは、今後のエリゼとの冒険に、若干の不安と、それでも期待を抱いた。♢洞窟の探索 洞窟に足を踏み入れると、まず湿った空気が肌にまとわりついてくる。冷たく湿った石の壁には、所々に苔が生え、ゆっくりと滴り落ちる水滴の音が洞窟内に響き渡る。洞窟内は薄暗く、アイテムボックスから取り出した松明の明かりがぼんやりと前方を照らす。壁に空いた亀裂や足元の不規則な石の配列が、ここが自然の力でできたものであることを物語っていた。その光景は、

  • 転生したら王族だった   46話 山頂に潜む、かすかな違和感

     軽食を摂り、少し元気が出たのでアイテムボックスから剣を取り出しエリゼにも渡した。実力は少年兵よりは高いから、少しは頼りになると思う。……お遊び程度の魔物しかでてこないと思うけど。この辺りの魔物の反応が、低級の魔物の反応しか無いし。これなら二人で楽しみながら山頂に向かえるかなっ。レイニーは、山の気配を探索し、状況を判断した。「さー、出発しよー♪」「はぁいっ!」 エリゼは、元気いっぱいに返事をした。 小さい魔物が現れると、二人で顔を見合わせてニヤッと笑った。「どうする? エリゼも戦いたいんじゃない?」「わたしに倒せるかなぁ〜?」 エリゼはそう言うけど、顔が笑ってるじゃん。しかも剣を構えてるし……。レイニーは、エリゼの興奮を感じ取った。「どーぞー♪」「……う、うん。えいっ!」 エリゼは、シュパッ!と剣を振り下ろし、一撃で魔物を討伐できた。その剣筋は、見事なほどに鋭い。「わぁーい! 倒せた! ねえ、見た?見た?」 エリゼは嬉しそうに振り返り、満面の笑顔で聞いてきた。昨日の森とは雰囲気が違い、不気味な雰囲気もないし。その瞳は、達成感に輝いている。「うん。余裕そうだね〜!」 というか、さすがセリオスの娘で剣の扱いが慣れていて剣がぶれていないし、剣のスピードが早い。レイニーは、エリゼの才能に舌を巻いた。「まぐれだよー」 エリゼは謙遜してるけど、日々の訓練の成果だと思う。これだと、俺の出番が無くても良いのかもなぁ〜接待の魔物の討伐だなぁ。日頃の感謝の気持を込めて、エリゼに付き合おう♪ レイニーは、エリゼの成長を喜び、温かい気持ちになった。「次は、お兄ちゃんね!」「俺は、帰りで良いよ〜。二人で疲れちゃったら、強敵が出た時に困るでしょ〜」 エリゼが楽しそうだったので、今は遠慮しておこうかな。レイニーは、エリゼに花を持たせることにした。「あぁ〜そっかぁ。わかった! 行きは、わたしが頑

  • 転生したら王族だった   45話 馬車の旅、エリゼを膝枕

    「はいっ! もちろんですっ♪ おとーさまっ」 レイニーは、そう言いながら国王に駆け寄り、抱きついた。それで、甘えておこうっと♪ 国王の服の感触が、幼い体に心地よい。「うむ。だが、キケンなことはするでないぞ!」 抱きつかれて、苦しそうな声を上げる国王の声が鳴り響いた。その声には、レイニーへの愛情と、それでも厳しさを教えようとする親心が感じられる。「はぁーい!」 レイニーは元気に返事をして、しばらく甘え続けて部屋に戻った。♢山への道のり ……翌日。 早朝から用意をしておいた馬車に乗り込み、エリゼと馬車で山へ向かった。 ちゃんとした送迎用の馬車で、王国の紋入りではなく普通の一般的な送迎用の馬車だ。一般人は……馬車には乗らないけどね。「わぁ! ちゃんとした馬車なんて初めて!」 エリゼが窓の外を眺めて、嬉しそうに声を上げた。前回乗ったのは兵士を護送するタイプの馬車だったしね。その瞳は、新しい体験に輝いている。「あはは……たぶん……10分もすれば具合が悪くなると思うよ……。この直に来る振動に揺れがキツイんだよね」 レイニーは、経験からくる予感を語った。「えぇ〜楽しいじゃん♪」 エリゼが、左右の窓に行ったり来たりして楽しそうに過ごしていた。その無邪気な姿に、レイニーは頬を緩めた。 …………。 ………………「あ、あぅ……」とエリゼが声を上げた。馬車が道に転がっている石に乗り上げ、たまに大きな振動が直におしりと腰にくる。その衝撃は、馬車全体を揺らし、乗員の体を突き上げた。 ………………。

Higit pang Kabanata
Galugarin at basahin ang magagandang nobela
Libreng basahin ang magagandang nobela sa GoodNovel app. I-download ang mga librong gusto mo at basahin kahit saan at anumang oras.
Libreng basahin ang mga aklat sa app
I-scan ang code para mabasa sa App
DMCA.com Protection Status